2007.03.23

手に入れた想い

〜2〜



 そのルヴァが、つい先刻、確かに言ったのだ。
『オスカーは、…その、……すみません、妙な話になってしまいますけれど…私と、したい―――とか、思っているんですか?』
 いつものように私邸へ招いての夕食後、ソファでグラスを傾けながら語らっているときのことだった。
 ルヴァの台詞に、自分の耳を疑った。そんなことをこんな風に訊かれるなんて、ありえないと思っていた。ほんの少し目許を赤くしながら伏し目がちに問う姿を、つい凝視してしまう。
『いえあの!―――私は男ですけれど、その……貴方はやはり、そういうことを思うのかな、と―――』
 じっと見られていることに気付いたルヴァが、慌てた風に手を振りながら弁解めいた言葉を紡ぐ。俺に対する牽制なのか、ただの確認なのか、それとも俺に対する望みなのか。尚も言葉を続けようとする姿に、一言一句聞き漏らさないよう、神経を集中させる。
『最近、よく口付けてくれるでしょう? …私、その度になんとも言えない不思議な気分になるんです。………貴方はいつも、私のことを愛していると言ってくれる。けれど、私のことをどこまで、どんな風に思ってくれているのか、ちゃんと…訊いたことがなかったものですから』
 下界で数多の女性を相手に駆け引きを愉しんでいたときのような余裕はどこにもなかった。失いたくないという想いの現れか、下心を見透かされた焦りか。
 本当は、自分から話をしてそれから、という流れにしたかったのだが、この際構わない。我ながら現金な奴だと思うが、ここで意地を張り返事を濁してしまうのは、言葉にしてくれたルヴァに対して失礼だろう。ままよ、と正直な想いを乗せて口を開く。
『それは、もちろん―――いや、けしてそれだけじゃないんだが、それは……愛しているから、触れたいと思う。もちろん…抱きたいとも、思う』
 随分とみっともない口上だ、と頭の片隅でもうひとりの自分が笑う。けれど、それが精一杯だった。『いつか女性に刺されるわよ?』とことあるごとにオリヴィエから言われ続けていた自分が嘘のようだ。
 判決を待つような心持ちでじっとルヴァの顔を見詰め、次の言葉を待つ。するとルヴァは、どこかほっとしたような面持ちで微笑み、両腕を差し伸ばすと俺に抱きついてきた。
『よかった……』
『―――よかった…?』
 ええ、と頷いたルヴァの顔が、少し赤くなっているように見えた。
『…私も、その…そう、思ってます』
 信じられないことが立て続けに起こると、人は簡単に思考停止に陥るものだ、と知った。
 貴方ならいいと思ったんです、と言ってくれたルヴァを、俺は、しっかりと抱きしめかえした。



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