夜に消える答えの在り処 〜 1 〜 |
忍ぶ恋、という言葉では甘過ぎる。逢う度に、互いを傷付けているような関係が、もう暫く続いている。 いとおしい想いは確かにある。あるのだけれど、逢えば逢うほど、古傷が深く抉れていく。どちらかがこの地から居なくならない限り、永遠に続くかと思うような関係。 舘の主しかしらないような隠し扉。古参の侍従くらいは知っているのだろうけれど、それはほんの一握りの者。主の意向が第一の彼等だから、この逢瀬の障害にはならない。秘密は、護られる。 古く錆の浮いた銀の鍵を、鍵穴にあててゆっくりとまわす。かちり、と確かな手応え。開いた扉の向こう小さな部屋にただひとつ置かれた椅子に座る人影がゆっくりと振り返る。棚引くターバン、柔らかく微笑む青鈍の瞳。 「待って、いましたよ……ヴィクトール」 言葉も無く、赤銅の髪が深く会釈をする。上がる視線の中影が静かに近付いて、腕の中温もりが預けられた。緩く抱き締め手を頤にあてる。上向かせて唇を合わせる。外気に晒されて未だ冷えたままの唇が、薄く温かい唇に触れる。頤に触れていた指が頬へ滑り、もう片方の腕で腰を引き寄せる。深くなる口付けにルヴァの喉が鳴った。白い頬が僅かに上気し始める。 離れる唇、開いた瞳。その中には確かな潤み。 「行きましょう」 間もなく、小さな部屋の明かりが落とされる。 寝台に腰掛けるルヴァの目の前に、ヴィクトールが膝をつく。襟元から服を寛げていく。暴かれた箇所から順に唇を落とし、軽く吸い上げた。見下ろす瞳が潤んだまま細められる。 鎖骨を丹念に辿りながら、一旦手を離して白い手袋を外す。夜目にも判る傷跡が痛々しく見えてしまう。手袋をサイドボードに置き、素手を胸元へ滑り込ませた。目の前の伏せた目元を見詰めながら、指に触れた胸の尖りをきつく摘み上げる。喉の奥から小さな声が聞こえ、びく、と身体が揺れる。そのまま揉み解すように、くにくにと尖りを潰しては根元を絞り上げるようにまた摘む。は、と漏れた吐息が甘い。 「此処、好きですね」 く、と青鈍が歪む。 「そんなこと……ない、です」 それでも笑みを浮かべる、強かさ。 惹かれたのは、穏やかな雰囲気か。物静かで広く深く包み込むような、懐に抱かれているような心地になることができる場所。 けれど、全てを赦すような微笑の裏側にも、確かに深い傷が存在していた。 深く酷く抉れて、今でもまだ血を流しているような、傷。 癒し癒される存在になりたいと、思ったのは確かだった。 赦しを希う咎人風情が。夢に見る、過ぎた夢。 しつこく弄る胸に、舌を伸ばす。きつく摘んだまま、先端を突付く。捏ね回すように硬く張り詰めた其処を舐ると、ぴりぴりとした痺れが走るのか細かく肩を震わせた。指を外し紅く充血した其処を唇で包み込む。強く摘んだ所為で少し痺れていたのか、いつもより刺激を強く感じるらしく、肩がくらりと揺れた。小さい溜息と共に頤が少し引かれる。 ……………ちゅく。 水音が唇から漏れる度に白い頬が上気していく。濡れて紅く光を弾く其処を吸い上げると、更に顔を下ろす。つんと尖ったままの其処は、痛痒いようなつきつきとした奇妙な疼きを齎していた。微かな空気の動きにさえ弄られるようで、ルヴァの表情が切なげになる。 視線を絡めた後、なだらかな腹部を辿り脇腹を擦り上げながら、緩く持ち上がった下肢へ手を伸ばした。 「っは」 瞬間、息を詰める。広い肩に両手がかかり、僅かに力が込められる。 ゆっくりと手を滑らせると、あっという間に硬く立ち上がってきた。薄く笑いながら揶揄するような視線で青鈍を見上げる。黄金の視線に含まれる台詞に気付いたのか、眉を顰め息を若干荒げたままルヴァが唇を舐めた。 「貴方、が」 ぐらりと上体が傾ぐ。赤銅の鬣を胸に抱きこむように両手を広げると、小さく言葉が吐き出される。 貴方が、欲しい。 |