何処に居ても傍に居る 〜 5 〜 |
浅いまどろみから目覚めると、目の前で微笑う紅い瞳。 「……ルヴァ、平気?」 汗ばんだ額に口付け。先刻まで自分があげていたあられもない声と姿を思い返して再び紅くなった頬にも口付けて、ゼフェルが囁く。 「すっげぇ、キレイだった」 心底嬉しそうに笑ってルヴァをぎゅうっと抱き締める。ぷしゅううう、という音を立てて煙を上げてしまいそうなほどに頬を火照らせて、ルヴァは自分を抱き締める腕に身体を預けた。 「今度行くときはさ、一緒に行こーなっ」 言いながら、ゼフェルはどこか甘えるようにルヴァの髪に頬を寄せた。一日だって離れんのやっぱ厭だな、と照れて笑う貌は年相応に見えて、ルヴァの胸の中、なにか暖かいものがほっかりと湧き上がる。 肩口から廻されたゼフェルの腕に頬を擦り寄せると、居間の古時計が0時を告げた。 互いに顔を見合わせてくすりと苦笑する。 「ゼフェル……御誕生日、おめでとうございます」 恥ずかしさに顔を未だ赤らめながらも、そうっと伸び上がってゼフェルの唇に自分から口付ける。些か驚いた顔で、けれど嬉しそうに微笑うと、お返しにルヴァの額へ唇を落とした。 片時も離れては居られない。いつも一緒に居たい。 その『想い』は、ふたりとも同じ。 「まだ終わってないんだろ?」 申し訳なさそうに頷くルヴァに、ゼフェルがにっこりと笑う。ルヴァひとりじゃ危なっかしーからな、オレが手伝ってやるよ。貴方に手伝って貰ったら、意味がないじゃないですか〜。困ったように眉を寄せるルヴァの眉間にゼフェルの唇が触れた。 「なに、それじゃ今日一日ひとりで居なきゃなんねーの?」 「…そんな、ことは…言ってない……ですけど」 下がる蒼の眉、困惑を浮かべる青鈍の瞳。一頻りルヴァを見詰め、彼の困ったような表情にくしゃりと顔中で笑うと、ほんのり紅い目元に唇で触れた。 「じゃぁさ、……今日はずっと、一緒に居よ」 一緒に居る、ということは、予定している準備を手伝ってくれてしまうのではないだろうか。それよりもしかして、準備すら滞るような悪戯をされてしまうのではないだろうか。 ゼフェルが知ったら怒り出すかもしれないようなことを考えながら、それでも彼の誕生日だから少しくらいの我侭は仕方ないか、ともルヴァは思ってしまう。……普段だって十分我侭なのだから、こういうときの我侭は特大だ、ということに今や思い至らない辺り、戀の病は重いということだろうか。 ふぁ、と、9つ年下の彼が欠伸を噛み殺す。 「なんか、ルヴァに逢えて気が抜けた……朝まで一緒に寝よ」 空気に晒されている髪に頬を摺り寄せて、もうひとつ小さい欠伸を噛み殺した。くす、と苦笑しながら、ルヴァもゼフェルの胸元へと頬を摺り寄せて抱き締め返す。 暫くごろごろとじゃれていたふたりの動きが次第に緩慢になり、意識がゆっくりと眠りに引き込まれていく。 「ルヴァ……好き、だから…な…」 擽ったそうにルヴァは肩を竦めた。 「わたしも…ですよ」 久方振りの安らかな眠りが、その夜ふたりの処へと訪れた。 了 |