微笑んだままでいて 〜 1 〜 |
さく、と若草を踏締めながら、当ても無く野道を行く。故郷を思い出させる水面、穏やかな水辺でもあればそのほとりで気ままに竪琴を爪弾いてみよう。初めて見る地、初めて会う人々、新しい情報を目の前に一度に並べられて疲れたのかもしれない、なんだかささくれてしまう心を落ち着かせたい―――――そんな気持ちになっていた水浅葱の瞳に、人影が飛び込んできた。 「あれは…地の守護聖の……」 小さな泉のほとり。傍らに竿を立て針を水面に漂わせながら夢の世界の住人となってしまっていたのは、やはり地の守護聖ルヴァだった。 直ぐ近くに置いてあった魚篭を恐る恐る覗き込み、中に1匹も魚が居ないことを確かめると、ほうっと安堵の溜息をつく。魚を釣ることが目的ではなく、のんびりとした思索の時間を求めて針を垂れる、という噂が本当だったことになんだか嬉しくなった。 起こしてしまわないよう立ち上がると、周りを見渡す。静かな水面を時折穏やかな風が通り過ぎていき、僅かに漣を立てる。さわりと耳に届く葉擦れの音も心地好く、眠りを誘われるのも頷ける、とひとり微笑った。 けれど、この場所で楽を奏でれば、安らかな眠りを妨げてしまう。ふと視線を転じた先に、また別の水の煌きを見つけてリュミエールは薄っすらと微笑んだ。 |