オリヴィエは、ルヴァの声『も』好きだった。
「ぁ……っリ、ヴィ…っ」
金糸を濡らし頬を伝い落ちた汗が、忙しなく息をつく白い胸に落ち、それだけの刺激にも甘い掠れ声が零れる。一時動きを止め、自身の内に渦を巻く灼熱を幾許かでも鎮めようと深く息をつく。
「も、……っゃ…ぁ」
何よりも甘く身を焼く声に、ぞくりとオリヴィエの背筋を震えが這い登っていく。ぺろりと唇を舐めると、断続的に震える膝の裏へ手を差し入れて、ゆっくりと身体を寄せる。
「一寸、焦らし過ぎちゃった……か、な」
「…っく、あぁっ」
深い快楽に身体を穿たれてルヴァが細く声を上げる。耐えきれぬようにシーツをぎゅうっと握り締める両の手、滑らかに仰け反る喉、仄紅く染まりしっとりと濡れた肌。惚れた欲目もあるかもしれないけれど、こんなに魅せられた相手は居ない、と、身体の底から湧き上がる熱にこくりと喉を鳴らしながら、オリヴィエは想った。
目を伏せて喘ぐように息をつくルヴァをぐいっと抱き上げ膝の上に乗せる。
「あぁっ!」
「……く…っ」
深くなる繋がりに息を引き攣らせてルヴァが高い声を上げた。きつくなった締め付けに眉を顰めるオリヴィエ。ほうっと息を吐くと苦笑しながらルヴァの頬へ手を添わせ、荒く息をつく唇に口付ける。
「一緒に、イこっか」
「…ぁ…っぁ…」
微かに頷きながら金糸に手を伸ばし身体を寄せてきたルヴァをきつく抱き締め、オリヴィエは彼の身体を深く貫いた。
ほぼ同時に高みに昇り詰めたふたりは、そのまま折り重なるようにしてシーツの上へ倒れこんだ。
「…ルヴァ……」
少し掠れてしまった声で名を呼ぶと、汗ばんだほおへに口付ける。幾らか疲れたような色を乗せて微笑むと、ルヴァは擽ったそうに首を竦めた。
「…ォ…リ、ヴィ…ェ…」
ちゅ、と唇に口付けられ、気恥ずかしさからか、頬を紅くしてシーツに貌を埋めてしまったルヴァに、オリヴィエが覆い被さる。
「可愛い」
「…そんなこと、目の前で言わないでくださいよ〜」
小さい抗議の声が上げられた。だあってぇ、と、幾らか語気に張りが戻ったオリヴィエが返す。
ベッドサイドの水差しからグラスへ水を注ぎ、上体を起こして喉を潤す。それをじっと見上げる青鈍の瞳に気付き、くすりと微笑うとひとくち口に含むと口移しで水を飲ませた。口の端から零れた雫を舌で舐め取り、ほうっと息をついたルヴァをきゅうっと抱き締めて、好きだよ、と囁く。
照れ臭そうに微笑うと、オリヴィエの腕の中で身体をもぞもぞと反転させて向かい合わせになり、両腕を首に廻してきゅうっと抱きついた。
繰り返される触れるだけの口付け。目許に頬に。蕩けるような笑みも、ふたりの間でだけ生まれる倖せのひとつ。
ふ、と。何かを考えるようにルヴァの視線がたゆとう。どうしたの、と顔を覗きこんできたオリヴィエに、他愛ない疑問が向けられた。
「その…怒らないで、くださいね。あの〜……私の…どこが、好かったんですか…?」
きょとんとした次の瞬間、むぅっと眉を顰めるオリヴィエに、ルヴァが慌てて言葉を付け足していく。
「いえ、あの、別に自虐とか卑下とかではなくて、その……だって、本当に判らなくて……時々、不安なんですよ〜……」
「ほんとに……宇宙一の知恵者が、自分の事となるとからっきし、なんだねぇ」
呆れ半分、愛しさ半分。ぎゅうっと抱き締めてやると、誤魔化されてしまうとでも想ったのか、『ちゃんと答えてください〜』と言い募る。くすくすと微笑いながら柔らかい髪の毛に幾つも口付けを落とす。抱擁を押し返そうと突っ張る掌の感触に苦笑して、ようやく腕の力を抜いた。
見上げる青鈍が先刻の情事の跡を未だ留めていて、想わずどきりと鼓動が跳ねる。
「そうねぇ………うん、『全部』好き」
「…それじゃ答えになってません〜」
「だって本当だもの」
拗ねたような表情がまた胸を締め付ける程に愛しくて。
|