蛹が孵化する日

〜 4 〜





「なにやってんだてめー……!」
 見事な蹴りが一発、金髪の後頭部に炸裂。頭を振って器用に脚をずらし地面に顔がめり込むのを避ける。
「なにするの、ゼフェル!」
「てめーこそ、オレが居ねぇからって変なコトしてんじゃねぇっ!」
 後頭部を撫でながら、きっ、と菫の瞳が紅い瞳を睨んだ。嗤う口元が対照的。
「ま〜だなんにも言えてない誰かさんには、そんなコト言われたくないな〜」
「て……っめ、この……!」
「なに騒いでるんだ?ふたりとも」
 ばちばちと火花さえ飛び散りそうな会話に、明るいランディの声が割って入る。ぎっ、と青い瞳に矛先を向けようとした紅い瞳の後ろで、ルヴァの声。
「ん……」
 ぎく、と2対の瞳が木陰のルヴァに注がれた。それを追う、青の視線。
「あれ、何時の間にか眠ってしまっていたんですねぇ……」
 目を擦りながら3人の顔を代わる代わる青鈍が見た。雰囲気に首を傾げて、よっこいしょ、と立ち上がる。
「おや……植え替えはもう終わったんですか?」
「あ……はい、終わりました!」
 うんうん、と頷きながら、ぱん、と手を叩く。
「それじゃあ、御茶にしましょうかねぇ〜」
「はい、お願いします!」
「……仕方ねぇな」
「そしたら、手、洗ってこないと」
 ランディに押されるようにしてゼフェルが屋敷の中へと姿を消す。にこにこと微笑いながらその後を遅れて歩いていくルヴァ。扉の向こうへ消えた影を見送り、ふいっと大空を仰ぐマルセル。



 ぱたぱたと軽い羽音。森から一羽、小鳥が飛んできた。
「チュピ!」
 呼びかける声に応じて、空へ延べられたマルセルの指にふわりと止まる。そのままぴょんぴょんと腕を伝って肩へと落ち着く。頬を寄せて滑らかな羽の感触を確かめて、菫の瞳がにっこりと微笑った。
 風が、金の髪をさらりと揺らしていく。
「カティス様」
 軽く顎を上げて、遠くを見る。此処には居ない、遠い処に居るだろう彼の人を、思い描く。
「ルヴァ様のことは、僕がちゃんと護ります」
 護れるように、強くなる。
 寂しさを癒してくれた、あのひとの想いを無駄にしないよう。ありのままの自分を失くさずに、強く、強く。



「マルセル、どうかしましたか〜?」
 入ってこない彼を気遣ってか、戸口にルヴァの影。
「なんでもないです!いま行きます〜」
 手を振って駆け出す、漸く大きくなり始めた身体。ストライドを広くとって、一秒でもはやく、あのひとの傍へ。





 駆け寄ったその勢いのまま、マルセルはルヴァを抱き締めた。










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