The boys of a day of some summer |
おるすばん 様:作 |
「だーーーー暑いっ。なんでこんな暑いんだよっ」 ここ何日かの恒例になっているセリフをゼフェルが叫んだ。 「もう、オレはがまんできねぇっ」 「ゼフェル、暑い暑い言わないでよ。余計暑くなるじゃないっ」 頬を膨らませて怒っているのはマルセルだ。 「ねぇ、ランディだってそう思うでしょう?」 さっきから黙ったままのランディに同意を求める。 「おう、なんだよ、おめぇだって昨日まではオレと一緒に暑い暑い騒いでたじゃねーか。なんで今日に限っておとなしいんだよ。どっか具合でも悪いのか?」 「うん、ランディ、なんか昨日までと違うね。どうかしたの?」 自分の主張が通って静かになったのかと思っていたがゼフェルに言われておとなしいランディが気になったのか心配そうに顔を覗きこむ。 「あぁ、なんかね、オスカー先輩が言うには『心頭滅却すれば火もまた涼し』なんだってさ」 「あ〜〜〜〜?それでっ?それがどうしたっていうんだよっ」 「いや、よく分からないけど・・・」 「てめぇバカにされたんだよ。あのスケこましに」 「オスカー先輩のことそんな風に言うなよ。あれでバスケは超高校級なんだからさ。そんな人と一緒にプレイして、教えてもらったりできるんだぜ。俺、この高校に入って良かったな」 「うっ、それはそうだけどよ・・・。大体にしてそれで涼しくなったのかよ?」 「いいや」 真剣な表情できっぱりと答える。 「だーーーだからお前はバカだって言うんだ!」 「バ、バカって、ゼフェル!訂正しろっ」 「バカをバカって言って何が悪いんだよ」 「なんだとっ」 気の短い二人のことで既に掴み合いが始まっている。 しばらく二人のやり取りを見守っていたマルセルだったがとうとう堪忍袋の緒が切れたらしく、両のこぶしを握り締め肩を戦慄かせながら下を向いて普段高いそのトーンからは精一杯ドスを効かせた声でただ、こう言った。 「ふ〜た〜りともぉぉぉ」 瞬間ぴたりと二人の動きが止まる。 「やべぇ」 「あっマルセル。お、俺達仲良しだからさ。あはは、あははは」 「そうそう、ケンカするほど仲がいいって言うじゃねーか」 「ふ〜ん、そう」 「ほ、本当だって。ほら、もう、ゼフェルも俺のことバカって言わないって言ってるし、暑い暑いって騒がないって言ってるし・・・」 「言ってねーよ。勝手なこと言ってんじゃねーぞ、コラ」 不満そうに呟く。 「何か言った?ゼフェル?」 そう言ってマルセルがにっこりと笑ってゼフェルを見る。 「い、いや。なんも・・・」 何を隠そうこの3人の中でいざとなったら一番怖いのは背が一番小さく、女の子と見間違うような容姿の持ち主のマルセルなのだった。 ランディ、ゼフェル、マルセルの3人は同じ高校のバスケ部に所属する1年生だ。今は夏の合宿の真っ最中なのだが、学校きっての大所帯のバスケ部の合宿ではどうしても全員が冷暖房完備の新館に寝泊りできるわけではない。 そんなわけで、3人はこの暑い夏のひとときを冷房のないこの旧館で過ごす羽目になっていたのである。 「あ〜あ、せめてこう、水でも浴びてよぅ、体が冷やせればいいんだけどよっ」 「う〜ん、そうだよな。でも、お風呂は新館にしかないし、それにきっとオリヴィエ先輩の貸しきりになってると思うな」 「ちっ」 ゼフェルが激しく舌打ちをする。 「あの派手男。レギュラーだかなんだか知らねーが、こっちは時間決められてカラスの行水状態だっていうのに一人でのんびり風呂に入りやがって」 「それにしてもうちの先輩方って個性的な人が多いよね、っていうか似てる人が居ないっていうか・・・」 「まあな」 「なんで、旧館にお風呂ないんだろう?新館が出来る前ってどうしてたの?」 「なんか、近くの銭湯に行ってたらしいぜ」 「銭湯かぁ。やっぱ、学校の敷地から出たらまずいよね」 「あぁ、そうだよな」 「そもそも銭湯はお湯だしな。オレは水浴びがしたいって言って・・・」 ・・・・・・ 「あ〜〜〜〜」 「プール!!」 3人でそう口に出して思わず顔を見合わせる。 ゼフェルが目を輝かせて悪戯っぽく笑った。 「行くか?」 「行こう!」 「えぇ行くの?だって鍵かかってるよ。それに誰かに見付かったらどうするの」 「面倒臭えやつだな。お前だって『プール』って言ったろ?とにかくオレは行くぜ。あの程度の鍵なら簡単に開けられるからな」 「いいじゃないか、マルセル。マルセルだって暑いんだろ?」 「う〜ん、でもなぁ・・・」 「迷ってるやつは置いて行くぞ。行こうぜ、ランディ」 「あぁ本当に来ないのか?マルセル?」 「分かった。行くよ」 「そうと決まったら、行こうぜっ」 「どう?開きそう?」 早速プールの鍵を開けにかかったゼフェルに覚悟を決めたマルセルが声をかける。 「おう、こんなん、余裕だぜっ」 カチリ、と金属音がして鍵が外れたの知れた。 「すごいな、ゼフェル」 ひたすら感心しながらランディがプールサイドへと足を踏み入れる。 ザッバーーン 派手な水音を立ててゼフェルがプールへと飛びこんだ。 「きっもちいぃーー。おい、早く来いよ」 「もーーー、そんな大声出して、見付かったらどうするのさっ」 「大丈夫だってっ。大体にしてここ、校舎や合宿棟から一番離れてるんだからなっ」 「よーし、俺も行くぞーー」 綺麗なフォームで飛びこみを決め、そのまますごい勢いで泳ぎ始める。 「すごーい、ランディ。水泳も得意だったんだ」 そのフォームの美しさとスピードにマルセルが感嘆の声をあげる。 ひとしきり泳いで一息ついたランディにゼフェルが声をかける。 「なぁランディ、勝負しようぜ」 「あぁ望むところだ。マルセルはどうする?」 「僕はいいよ。審判してあげる」 「よし、じゃあ50mで勝負な」 「O.K.」 「うん、じゃ、位置について、よーい、ドン!」 水飛沫があがり二人が同時に飛び込む。 「すごーい、二人とも・・・」 あまりの速さに呆然としながら展開を見守る。 ザッ 一瞬早くランディの手が壁にタッチされた。 「どっちだ?」 荒い息でゼフェルが尋ねる。 「際どいところでランディの勝ち」 「ランディ、もう一勝負だ」 「もう、ゼフェルったら負けず嫌いなんだからぁ」 何度目かの勝負を終えたところでさすがにマルセルが呆れたようにこう、呟いた。 「ちきしょう、勝てないだと?ランディ、もう一回だっ」 「もう、いい加減にしてよ、ゼフェル。明日だって部活あるんだからねっ。戻って寝なきゃ」 「ちっ分かったよ」 「おい、コラ、1年坊主起きろ!!」 乱暴に足で踏みつけるようにして寝ぼすけどもを起こして回る。 「んん〜〜〜」 「わぁ、オスカー先輩。おはようございますっ」 「なんだよぅランディ、うるせーなぁ」 むにゃむにゃと言いながらまだ目を開けようとしないゼフェルがふいに宙に持ち上げられる。 「あんたも起きるんだよ、ほらっ」 「わあぁぁぁぁ」 「おや、起きたみたいだねぇ?」 「オ、オリヴィエ・・・?」 「先輩、でしょ、セ・ン・パ・イ」 「それにしてもあんたたちこんな暑いとこでよくもそんなぐっすりと眠れるもんね。ほぉら、マルセル。あんたも起きな」 軽く頬をはたく。とパッチリと紫の瞳が開かれじっとオリヴィエの顔を見る。 「おや、わたしの美しい顔を前に声もでないかい?」 こくこくと頷く。 「んもうっなんて素直でかわいいんだろうねっ」 ぎゅうと抱きしめられ、あまりのことに抵抗もできないでいるマルセルにオスカーが哀れに思ったのか助け舟をだす。 「おい、オリヴィエ、おふざけもそのくらいにしとけ、マルセルが硬直してるぞ」 「はいはい、わかってるよ。それにしても、先輩に起こされる1年なんて前代未聞よぅ。とりあえず朝食抜きね」 「ええぇぇぇぇーーー」 「当たり前でしょっなんか文句あるっ」 諸先輩を見送ってゼフェルが叫ぶ。 「ちきしょうーーー」 「でも、また勝負しような?ランディ」 にやっと笑ってランディに問い掛ける。 「いつでも受けてたつ」 「もう、負けず嫌いなんだからっ」 また、今日も暑い一日になりそうだ―――― Fin |