横笛の音を頼りに歩を進める。潅木を掻き分け、森を抜けていく。
すっかり顔を出した月の光が、木々の葉の隙間を縫って地慧の頬へと舞い降りてくる。暫く歩くと、森の中程、ぽっかりと木々が途切れた場所が見えた。小さな広場のようになったその場所に近付くと、その真中に誰か人影があった。
ぱき、と踏み出した足の踏んだ枯れ木が音を立て、表情の見えぬその人影が地慧に気付いて顔を上げた。
「あ……」
「これは……地慧様ではありませんか。一体、こんなところでどうなさいました?」
ゆるりと微笑むその人影は、奏楽の士、水弥だった。その手に横笛が握られているのを見て、先刻耳に届いた音色の元はここだったのか、とひとり心の中で頷いた。
月明かりに透かし見える地慧の、何処か憔悴したような表情に総てを悟ったのか、辛そうな貌で水弥が隣に立つ。
「お逢いになれませんでしたか…」
静かなその声に、抑えていた涙がぽろりと一粒零れ落ちた。
些か慌てたように水弥は地慧を覗き込み、目元の雫を拭うと肩を抱き寄せた。
「地慧様を悲しませるなど……非道いことを」
肩を抱く優しい腕に、地慧の瞳が揺れる。
思い出したように時折しゃくりあげる背中を宥めながら、水弥は口を開いた。
「地慧様……私の宮にいらっしゃいませんか?」
ひとりでは余計お辛いでしょう……? というその申し出に、こくりと頷いて濡れた目元を拭う。嬉しそうにふわりと微笑うと、少し震える背中に手を廻して先を促した。
「先日、いいお茶が手に入ったのですよ…まだ地慧様にはお勧めしていませんでしたから、それをお淹れ致しましょう」
「すみません、水弥……本当に…ありがとうございます」
うっすらと微笑む消えそうな表情に、水色の瞳は優しげに微笑った。
〜 水弥−リュミエールEND 〜
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