白に揺れる予兆
〜3〜

 規則的な揺れの中、顔に当たる風に目を細めて手摺りに寄り掛かる。
 町中での戦闘の後に見たアレンの顔がラビの脳裏に浮かぶ。胸許に在る十字架の意味を思い出したのか、それとも己が心に折り合いをつけたのか。何が起きたのかはっきりとは判らないが、少しだけ何かが落ちた、そんな表情をしていた。
 ガチャ、と音を立てて開いた車両の扉に、肩越し振り返る。
「―――爺」
「ラビ、…如何見た」
 ブックマンの台詞に、つと唇を引き結ぶ。ラビは首をやや右後方に傾け、少し考える風な所作で視線を斜に向けた。
「リナリーは相変わらず真っ直ぐさ。世界が然程広くない分判りやすい。………アレン、は」
 少し言葉を切って、顎を引く。ラビをじっと見るブックマンの目は、何処か穏やかで、けれど厳しい色を帯びていた。いつものことだが、やはり試されている気がする。両手を手摺りにかけたラビは、その視線を真っ直ぐに見返す。
「今までのデータだけじゃ全然足り無さそうさ。単純そうに見えて、案外複雑で、不安定。―――面白そうな素材じゃね?」
 に、と笑って見せると、ふ、と珍しくブックマンが微笑った。
「それなりに成長の跡は見える。………が、未だ頭が足らんようだ」
 評価した直後に釘を刺すことを忘れない。くそう、と悔しそうな顔で、けれどラビは笑った。
「へぃへぃ。引き続きしっかり視るさ」
「……判っているとは思うが、くれぐれも己が立場を忘れるな」
 扉へ手をかけるブックマンへ背を向け、ひらひらと手を振って見せる。微かな溜息と共に、気配は車内へと消えていった。
「判ってるさ…そんなコト」
 次第に深くなっていく森に遠く視線を泳がせて、思考に意識を委ねる。
 知りたいと思う。歳相応に子供っぽい言動の隙間、時折覗く昏い瞳の奥に何が潜んでいるのか。裏歴史を記す相の者としては勿論、ひとりの人間として、知りたいと。何故かそう思った。
 不意に過ぎる妙な予感を、打ち消すように頭を振って払い、青い空を仰ぐ。
「暫くは退屈しなさそうさ。―――楽しみだ」
 愉しそうに笑ったラビは、扉を開き皆が居る車両へと戻っていった。





<了>

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