きっと傍に居て
壬生×主






「なぁ、紅葉」
「何?」
 腕の中から見上げてくる黒檀のように艶やかな瞳。吸い込まれそうなそれに幾度魅せられたことか。今この腕の中に彼が居ることすら、時折信じられなくなる。
「…また、余計なコト考えてるだろ」
「別に」
 龍麻にはなかなか隠し事ができない。もともと勘が良いから、こんなに近くに居ると、互いに大体のことは判ってしまう。それでも、龍麻に出逢うまでの習性はなかなか消えるものではなく、彼曰く『自分の殻』を無意識に被ってしまうことが未だにある。
 真っ直ぐな視線が、紅葉の瞳を射抜く。
「あのさ……俺と一緒に居るときは、全部…紅葉を全部、見せてよ」
 ごそ、と紅葉の胸に顔を押し当てて、祈るような声。
「直ぐには無理かもしれないけどさ……そのうち、俺の傍で、安心して気が抜けるようになって欲しい―――――なんて、思ったりする」
 『人を信じる』ことは、強くなければ出来ない芸当。勿論、身体も、心も。ずっと、もう随分長い間、心を殺してきた紅葉にはなかなか馴染まない行為。けれど、龍麻に出逢ったことで、紅葉の中で何かが変わり始めているのは確かだった。
 その『変化』は、いいことなのか、悪いことなのか。以前は考えたこともなかったけれど、そんな関係が、今はひどく心地良い。
「そうだね―――」
 胸に何かが込み上げてくる。自分より長めの髪に指を差し入れて彼をきつく抱き締め、髪にひとつ口付ける。初めて肉親と同じくらいに大事だと想った存在。失くしたくないと、ずっと傍に居たいと。本当に、本気で。



 少し顔を上げて、龍麻が紅葉の喉元に唇を寄せる。したいようにさせていると、胸元にむず痒いような刺激を感じて紅葉は訝しげに視線を下ろした。悪戯っぽい色を浮かべて尚も口付けようとする龍麻の口元、紅葉の肌の上に、うっすらと紅い痕が浮かんでいた。
「また―――付けた」
 ぺろ、とまた舐められて、熱が生まれる。
「厭?」
「……そんなこと、ない」
「じゃ…俺にも付けてくれる?」
 にっと笑いかけられて、軽い眩暈。疼き出した熱を抑えながら、どうして?と聞き返す。
「だってさ……紅葉は俺のもので、俺は紅葉のものだ、って…いつも、想っていられるから」
 彼の言葉にどうにも平静を保っていられず、抱いていた身体を仰向けにさせて先刻彼が紅葉につけた場所と殆ど同じところに口付けると、紅葉は軽く歯を立ててきつく吸い上げた。
「っぅ……ん…」
 ひくり、と戦慄く身体。くっきりとついた紅い痕へ、再度舌を這わせて慰撫する。
「紅葉…」
 じっと見上げてくる龍麻の物言いたげ瞳に、ゆるりと微笑いかけて先を促す。意地悪、と呟く龍麻に、そうかな、と惚ける紅葉。きゅ、と唇を噛み締め、少し視線を彷徨わせた後、再度紅葉と視線を合わせて呟くように告げる。
「あのさ……しない?」
「…したい?」
 こく、と素直に頷く龍麻に、紅葉はもう一度口付ける。
「紅葉は…したく…ない?」
 恐る恐る聞いてくるその様子にくすりと微笑いながら、唇を耳元に寄せて囁く。
「したいよ…龍麻となら、いつでも」
「……スケベ」
「龍麻もね」
 ふたりの忍び笑いが重なって部屋に響く。




モドル ススム





カエル