蜜色の月
村×主






 ぎし、とベッドが軋む。
「…っふ、ァ…ッ」
 ようやく開放された唇が、空気を求めて喘ぐ。間を置かず指が2本挿し入れられ、戸惑う舌を探られて喉を鳴らす。
 胸元でしつこく悪戯を働く指に唇が近付き、緩く摘ままれたまま舌先で弄ぶ。捏ねるように一頻り弄った後、放っておいたもう片方へ舌を這わせると、ひくりと龍麻の肢体が戦慄いた。
 腰から臀部へと手を滑らせて、勃ち上がりかけた昂ぶりを握り込む。ゆるゆると手の平を動かしながら、村雨は龍麻の表情を眺めた。
「好い貌だ……堪らねェな」
 浅く喘ぎながら、口腔を掻き乱す村雨の指にひたすら舌を絡ませる。揶揄するような言葉に蕩けかけた表情が俄かに光を帯びた。村雨の指を吐き出そうとするけれど、それを許さず逆に舌を絡め取る。
「ちゃんと舐めてくれ……これから此処に、入るンだからよ」
 芯を弄っていた手が其処からするりと離れ、奥まった蕾を掠めてまた戻ってくる。未だ硬く閉じたままの蕾はそんな刺激にすらひくりと戦慄き、融かし込まれて来た快楽を憶い出し始めてしまう。
 再びゆうるりと融けていく視線に笑みを送ると、口腔を弄っていた指を引き抜いて双丘へと忍ばせる。
「いいか?入れるぜ…」
 熱っぽく囁きながら、焦れったい程にゆっくりと指を沈めていく。まずは中指。捻りながら押し開いていく感覚に、龍麻が細い声を上げる。ふる、と背を震わせながら、村雨は唇を舐め、ひとつ息を飲み下した。
「……きついな」
 喉の奥から笑みを零す村雨を睨みながら、けれど身体の奥を穿たれて、反論も叶わない。先刻まで絡めていた龍麻の蜜を媒介にくちゅりと音を立てて沈んでいく指先を、くっと曲げて内壁を擦る。
「っあ、ぁ…ッ…」
 不意に身体の奥で沸き起こった鋭い刺激に、びくりと龍麻の身体が跳ねる。
 手の平で包み込んだ龍麻の熱へ唇を寄せ、啄ばむように口付ける。触れる度正直にひくりと震えるそれに笑みを浮かべながら、もっと奥へと指を潜り込ませていく。
 と、指の動きが途中で止まった。訝るように視線を上げた龍麻の身体が、声にならない声と共に大きく揺れた。
「あ……や…ッ!…其処……っ…さ、わる…な…っあ、ああっ」
 前立腺を探り当てた村雨の指が、遠慮会釈無しに其処を突き上げた。
 目も眩むようなきつい快楽に、龍麻の昂ぶりがあっという間に硬く勃ち上がる。それを緩急つけて扱きながら、気をやってしまわないよう必死に堪える辛そうな龍麻の表情を眺め、愉しげに村雨は目を細めた。
「溜まってんだろ……1回、いっちまえ」
「なに…言っ…て…っん、あ、ぁッ」
 身体の震えが細かくなっていく。上がる声のトーンも次第に高く細くなり。
「…っ迦…や……っひ、ぁ…あ、あああっっ」
 骨に染み込むように甘い嬌声を上げながら、龍麻は気を飛ばした。びくびくと引き攣る肢体に最後の最後まで快楽を注ごうとして、村雨は白い蜜を吐き出す眼下の昂ぶりをぐちぐちと尚も弄る。
「我慢なんざするんじゃねェ。……イきたいだけ、達かせてやる」
 後ろから指を引き抜き下腹に散った蜜を集めると、今度は人差指を中指に添えて再び穿つ。跳ねる肢体に震える昂ぶり。符に縛られたままシーツを掴むことすら出来ず緩慢に漂う手足を眺め、『もう少し待ってろよ』と呟くと、脇腹に手を添え蜜で汚れた龍麻の肌を舌で清め始めた。
 狭い後孔を探る指の動きと、腹部や胸元を這う舌の感触。自身が吐き出した蜜を舐め取っていく村雨に気付くと、龍麻は眉を顰めて制止の声を上げる。
「な…っ…やめ……ろ、よ…っんな…コト……ッ」
「別にいいだろ。…このまんまじゃ気持ち悪いだろーが」
 腹を伝い上った舌が、硬く立ち上がったままの乳首に吸い付く。戯れるように弄った後、再び肌を伝い降りて残滓を片付けていく。
 舌で掬い取り、ごくりと飲み干して、更に肌を弄り、時折吸い上げて仄かな紅を遺す。その合間に、胸元を啄ばんでみたり、脇腹を舌で辿ったり、彼方此方で悪戯を幾つも仕掛けてはまた戻っていく。勿論、奥まった蕾を散らす指で、熱い媚肉を間断なく弄りながら。
 身体の奥に仕掛けられる甘い誘いに翻弄されるまま、否応無しに追い上げられていく身体を抱えて、龍麻は微かに声を漏らした。



 ちゅ、と臍を最後に吸い上げると、ようやく気が済んだのか村雨は顔を上げた。顔を紅くして刺激を耐えようとする龍麻の頬に口付け、耳元で低く囁く。
「……龍麻」
「…ッァ」
 吹きかけられた吐息の熱さと髄にまで響く甘い声に、ひくりと肢体が戦慄く。
 耳朶を唇で挟み、柔らかいその縁を舌先でゆるりと辿る。断続的に零れる少し抑えたような掠れ声に誘導された痺れが、時折ぞくりと背筋を這い上がっていく。そんなこんなで粗方出来上がってしまっている自分に苦笑しつつ、村雨は蕾に含ませている指に力を込めた。
「うァ…っ」
「少し……慣れてきたか…?」
 肩を震わせて仰け反る龍麻の耳の裏側、髪の生え際に口付けながら、先刻と寸分違わぬ個所を指で擦り上げる。首筋、喉元、胸元と、あちこちに紅を散らしながらようやく上体を起こした村雨の眼下で、硬く反り返った龍麻の昂ぶりがとろとろと先走りを零していた。薄く笑みを敷いた口元、乾いた唇を舐めると手を伸ばし、その先走りへと指を絡めて滑らかな先端を円を描くような要領で愛撫する。
 雄芯への緩慢な刺激とは打って変わり、媚肉へ与えられている刺激は遣り過ごすことが出来ないくらいの淫靡さを持って龍麻を虜にしていく。
「さっき折角綺麗にしたッてェのに……もうこんなに濡れてるぜ…?」
 零れそうになる声を抑えるのに必死で、反論したくても口を開けば違う声が出てしまいそうで、龍麻はただ首を横に振る。奥を突付かれる度に眉根を寄せ、熱い息を吐き、吐精を促すような村雨の指に翻弄される。
「…あ…ァッ……も…っイ、く……ッ」
 競り上がる快楽が胸の中に蟠り、震えが首筋を這い登って脳髄を蕩かす。いつもより昇り詰めるまでの時間がやけに短いことに村雨は些か驚きながら、それでも嬉しそうに龍麻の胸元へ口付けた。
 手元を加減しながら村雨はじっと龍麻の貌を見詰めた。薄く開いた黒曜の焦点がふっとぼやける瞬間を狙って、ひくりと震える雄芯の根元をきつく戒めてしまう。
「…ァ…あ…ッ」
 達けると想った瞬間に精を堰き止められ、渦を巻くもどかしい程の熱と締め付けられる痛みに龍麻は目を見開いた。引き攣ったように落ちる声、まるで痙攣のようにがくがくと震える下肢。
「な……ん、で…ッ」
 ぽろりと涙を零しながら、喘ぐように問う。
 問いに応えるように現れたのは、酷薄な笑み。
「先刻の蹴りのお返しもきっちりしとかなきゃなンねェしな」
 口調や表情から連想される『お返し』の内容は、余り考えたくない部類の物で。渦を巻く熱のもどかしさに新たな涙を浮かべ呆然と見上げる龍麻の目元に、その場には不釣合いなくらい優しい口付けが落とされた。




モドル ススム





カエル