2009.03.11 UP

みつけたヒカリ
〜2〜



◇   ◇   ◇



 夜中、ふと目が覚めた。なんだか妙に狭くて、誰かの寝言やイビキまで聞こえてくる。なんだこれ、と疑問に思った次の瞬間、合宿に来ていたことを思い出した。
 少し喉が渇いてる気がする。身体の上に乗っかっている誰かの腕をどかして起き上がり、みんなを起こさないようそっと立ち上がって、静かに部屋を抜け出した。



 蛇口を捻り、手の平で水を受けて飲む。は、と浅く息をついて水を止め、流しを背に寄りかかった。
 受験で鈍った身体をたたき直した4月の基礎練習に引き続いてのGW合宿と、仕上げの練習試合。正直、ここまで自分のテンションが上がるとは思わなかった。 通いやすいトコにあって、硬式野球部は出来たばかり、でも専用で使えそうなグランドがある。それだけで入学を決めたのは我ながら大バクチだったなと思う。でも、入学早々にチーム組める人数が集まったし、ポジションもいい感じにバラけてたし、何より、バッテリーを組んだ投手に初めて『何かしてやりたい』と思った、そう思える投手が見付かった。これはもう『上出来』の部類だろう。
 オレの言うことをよく聞くそこそこ腕の良い投手が見付かればいい、なんて思っていた自分が、ちょっと…いやかなり恥ずかしい。口惜しいけどモモカンはやっぱ『監督』だ。それで、オレも『まだまだ』だってことだ。
 ひとつおおきく伸びをして、みんなで雑魚寝してる部屋へ戻る。薄暗い中、踏み場をどうにか見付け、自分が寝ていた場所へ辿り着く。
 あくびをかみ殺しながら布団へ潜り込もうとして、ふと、少し離れたところで眠っている三橋へ目を向けた。
 今まで見てきた中で最高のコントロールを持っていて、今まで見てきた中で最高にイラつくキョドり方をする、ある意味扱いにくい投手。でも、こいつは初めてオレに『何かしてやりたい』『力になりたい』と思わせた奴、なんだ。
 今日の練習試合では、出身中学―――三星学園の元チームメイトたちに未練タラタラなカオしてたこいつに、『三星には戻らない』と言わせることができた。勝てたのは、監督とオレの言葉に奮起してくれた打線のお陰、と言っても過言じゃない。それに加えて、三橋がオレのリードを信じて投げきってくれたから、だから、勝つことができたんだと思う。



『捕手が投手につくした分を、投手は信頼で返すのよね』
 そう言ったモモカンの言葉が、頭の片隅にずっと残っている。
 一方通行じゃないことの気持ちよさなんて、今まで知らなかった。
 意思疎通は―――と言われると、まだまだ過ぎて苦笑つか落ち込むしかないけど、まだ始まったばかりだ。なんとか…なるだろう。そう思って、なんとかする自信が余り無い自分に気付く。苦笑が零れた。
 はぁ、と溜息をつきながら布団へ潜り込み、目を閉じる。やがて訪れる眠りに意識を手放しながら、『西浦を選んでよかった、って、絶対に思わせてやる』と、改めてオレは自分に誓いを立てた。





<了>



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