DARK BLOOD 〜 4 〜 |
清一色×八戒 |
切り裂かれ血に濡れた衣服の残骸の隙間から、艶かしく染まる肌が覗く。 「気持ちいいでしょう? 幾重にも切り裂かれた傷の疼きは」 喉を押さえつける力が強くなる。長く伸びた爪の先が、胸につけられた傷口を辿って いく。痛みにびくん、と肩を揺らした後……身体に残る奇妙な感覚に煤竹の髪が揺れ た。なにかが身体の奥から競り上がってくるような感覚。 ワタシ 「貴方が我の眷族に残した傷の数には、まだ全然足りませんけれどねェ」 くすくすと笑う声は酷く耳障りで。あまりの痛みにきつく閉じられていた碧玉が薄っす らと開かれる。命を握られている状況だというのに強かに睨めつけてくる視線を受け止 め、細い目を更に細めて、歓喜に身体を震わせる。 「その瞳……本当に好い瞳ですねェ。ぞくぞくします」 それからは断続的に、幾度も点棒が八戒を襲った。同じ場所に立て続けに刺さったか と想うと、浅い傷をあちこちへと広げていく。けれど上がる声はただ呻き声のみ。途切れ ぬ痛みに恐怖する嘆きも、赦しを乞う鳴き声も、一切零れることはなかった。 脇腹にざっくりと開いた傷を、羽毛で撫でるように触れる。びくん、と跳ねた身体で受 け取った強い刺激。痛みが、身体の中で違うなにかへと変貌していく。肢体のその震 えを見詰めながら、切り裂かれ申し訳程度に身体に張り付く着衣の残骸を、ひょい、と 爪で引っ掛けた。 正真正銘夜気に晒された肌、血を流す傷を指先で慰撫しながら、首にかけた手を更 に喰い込ませる。 「か、はっ」 喘ぐように口を開くけれど、緩まない手に遮られて空気は肺へ届かない。身体中の熱 が頭部に集まり酷い耳鳴りが始まる。秀麗な顔容には、醜悪な鬱血。 「…悟能」 細い舌で唇を辿り、ひたりと唇を重ねる。空気を求めて開かれた口腔を好きなだけ弄 り、痙攣する舌を絡め取って甘く吸い上げる。霞む意識の何処かで、八戒は確かな血 の匂いを感じた。 「甘いでしょう?血の、味は」 するりと手が離れる。途端激しく八戒は咳込んだ。苦しさに涙の滲む碧の瞳に舌を這 わせながら、一色がにぃっと嘲笑う。震える身体を宥めるように髪を梳き頬を撫で、謳う ように囁いた。 「苦しかったですか?…すみませんでしたねェ」 ちゅ、と両の目元に口付けて、顔を上げる。涙で潤む瞳を覗き込みながら、意味あり げな妖しい笑みを浮かべた。傷を辿る指の感触が、妙に熱い。 「貴方の鳴く声が、聞きたいんですよ……どうしたら、いいと想います?」 不穏な笑み。背筋がざわりとざわめいた。 身体が、熱い。 |