2000/02/25・UP
DARK BLOOD
〜 9 〜
清一色×八戒


「どうかしましたか」

 ぐちゅ、と傷口を弄られて沈みかけていた意識が激痛と共に舞い戻る。顔を歪めなが

ら目を開く。碧の瞳に映った顔が、先刻意識の底で垣間見た男の顔と重なった。





 アノ時屠ッタハズノ男ト同ジ顔。

 否、アノ時確カニ屠ッタ男。





 ドウシテ、今、此処ニ居ル?





 見開かれた瞳の色に、悟ったような笑みで一色が応える。

「想い出しましたか?」

 くっくっ、と、楽しそうに声を震わせる。

「今一度貴方に逢う、その為だけに、奈落から舞い戻ったんですヨ」

 苦しげに開く瞼から覗いた瞳が、訝しげな視線を向ける。眷族に与えた刃の報いを求

めるのなら、何故殺さないのか。どうしてこんなことをするのか。

 何が、目的なのか。

 問う碧の瞳に雪より白い貌が近付く。薄い唇から覗く舌が血のように紅い。視界が紅

で覆われ、ぬるりとした感触が目を襲う。痛みは無く、気持ち悪さと奇妙な感覚が背筋

を伝い降りていく。顔を振って逃れることもできなかった。

「貴方に穿たれたこの胸の穴を埋めるのに、貴方が必要なんです」

 ぴちゃりと音をたてて、舌が離れていく。額がつくほど近くに顔を寄せられているの

に、熱を感じない。細められていた目が僅かに開き、底の見えない色の瞳がひたりと八

戒を見据えた。
 
 ワタシ                        ワタシ
「我の眷族がどうなろうと、別に我の知ったコトじゃありません」

 屠った罪無き命への贖罪に喘ぐ心の慟哭。

 そうせずには居られなかった利己主義への悔恨。

 近親への狂愛に苛まれる己の愚かしさと自責。

 それら全てを背負ったまま、『八戒』の心の何処かをさ迷い歩く『悟能』。

「その貌で、その声で、その瞳で…………鳴き、喘ぎ、叫ぶ。そんな貴方の姿だけが、
 
ワタシ
我の空虚を埋めてくれる」

 全てを忘れようと血の涙を夜毎流しながら、それでも忘れられぬ過去の記憶に責め苛

まれもがく姿こそが、一番欲しいモノ。

 ひゅっ、と人差し指が伸び、腹の傷に深く差し込まれる。

「この血のぬくもりが……欲しいんです」

 ぐちゃりと掻き回される。あまりの激痛に、叫びが声にならない。眼下の表情に、一色

の笑みが濃くなった。





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バレンタインカウントダウン ☆ 清一色から八戒へ / 『狂愛』 を込めて