FAKE 〜 1 〜 |
清一色×八戒 |
暗い地平線、煌々と輝く月。それを眺める、昏い瞳。 色素こそ薄いそれは、その色に反して奈落の闇を纏っていた。 ふ、と口元だけが嗤う。薄く開かれた唇の奥で、響く声。 「悟能」 音を舌に乗せ転がす。その表情に垣間見える愉悦。 場末の安宿。意外と背の高いその屋根に、影がひとつ。白い服、長い髪をひとつに纏 め背中へと流した細身の身体。 音も無く立ち上がる痩身の瞳に、微かな色が浮かぶ。次の瞬間、足元から屋根に吸 い込まれるかのように、その姿は掻き消えていた。 なんの物音もさせず、忽然と一色が姿を現す。ぐるりと巡らされた視線が、寝台へと 向けられる。 きし。踏み出された足の重みに耐えかねて、床が微かな悲鳴をあげた。 手を伸ばせば届くくらいの距離。目を細めて眼下の貌を眺める。 「………」 無言で手が伸ばされる。上掛けから覗く白い首筋。触れるか触れないかの瞬間、沈 黙が破られた。 「何をしにきたんですか」 冷たい笑みが口元に現れる。 「アナタに逢いに」 触れた指先に冷たさに、八戒は僅かに身を竦めた。くすりと笑う気配。 「僕に」 「ええ。『貴方』に」 膝の重みが寝台の一辺を沈み込ませる。真上から覗き込むようにして、碧の瞳を見 詰めた。 確かに返される、視線。 |