肌という堰を押し除けて、更にその奥へ。深く深く潜り込もうとする爪は、やがてふつりと皮膚を破り、血肉へと辿りつく。
「―――ぁ、ア…ああッ!」
鋭い痛みに青年の身体が跳ねる。男は、漸く上がった嬌声に笑みを浮かべた。そして、血を流す傷口へ爪を立てたまま、戦慄く身体を更に突き上げる。身体を襲う痛みと奥底を抉られて生まれる愉悦に、青年の理性が少しずつ崩れていく。
「あ……ァ、駄…目―――っく、ぅ」
潤みを増した青年の瞳が虚ろに揺れ、震える指先が両手を縛める鎖を力無く掻く。引き攣るその膝を男は宥めるように撫で、その手で戦慄く頤を捉えた。貌を寄せ、耳許へ唇を寄せる。
「―――達きたいのなら、構いませんよ。 …達きなさい」
「ッあ、ああ」
耳許へ囁きつけられた男の言葉に引き摺られるようにして、青年の身体が一際大きく跳ねた。断続的に戦慄く身体が、青年の絶頂を告げる。
「ア―――あ、ぁ」
けれどきつく縛められたままの肉茎は熱を開放できず、僅かに蜜を零しただけだった。達くに足るだけの快楽が未だ無いのだと勘違いした後孔が、更なる愉悦を求めて男の肉茎をきつく締め付ける。戦慄く身体が新たな愉悦を生む。過ぎた快楽に青年はかぶりを振り、喘ぐように息をついた。
「ああ………そういえば、縛ったままでしたねェ」
男は白々しくそう言うと、痛々しい程に紐を食い込ませ張り詰めたままでいる青年の肉茎へと手を伸ばした。中指で括れを捉えただけで、青年の身体がびくりと跳ねる。
「う、ァ…っ―――い、ゃ…だ…ッッ……さわ…、な…っ」
「違うでしょう? …嘘はいけませんよ」
男の台詞を否定するように、青年が幾度も首を横に振る。その仕草に男は愉しげな笑みを口許へと敷いた。紐で吐精を遮られている青年の蜜口を、親指の腹でぐるりと捏ねる。
「だって、そうでしょう。―――ほら」
「っあ、ァ!」
衝撃が蜜口から腰へ、腰から脊髄へと伝い、青年の身体がびくりと跳ねてきつく撓る。脳裏が一瞬白むような愉悦に、青年の声までもが引き攣る。その腰を男は抱え直し、畳み掛けるようにして突き上げた。
「は、ッあ、ぅ………んん…ッ」
青年の身体の中でとぐろを巻く快楽は出口を求めて暴れ、衝動に侵された理性を更に侵食していく。動きを制限されている両足が、もどかしげに震えて床を掻いた。
「ああ…ッ!」
先刻作ったばかりの傷口へ男は指を喰い込ませながら、青年の身体をぐいと強く突き上げた。弾ける声に男は耳を澄まし、目を細めた。突き上げ揺すり上げる動きを止めぬまま、首を傾げるようにして青年の顔を見上げる。
与えられる快楽に息を呑み、与えられぬ開放に唇を噛んで、青年の濡れた視線が彷徨う。
「こんなにされてるのに貴方、笑ってるじゃありませんか」
間断無く突き上げられる身体を震わせ、半ば拷問に近い愉悦に曝されながら。快楽に濡れた表情を隠そうともせず、青年は確かに、笑っていた。
「もっと、…酷くされたいんでしょう?」
傷へ喰い込ませた指を更に深く突き立てて男が肉を抉る。青年の唇から零れた声は、嬌声によく似ていた。
背後を振り向くような青年の仕草に男は手を伸ばして、頤を捉え引き寄せる。荒い息を抑えようとしなくなった唇の縁へ口付けると、青年は自ら首を傾けて、男へと口付けを返した。
「―――も………っ、と…」
ワタシ
「ええ、勿論。―――我の悟能」
青年の掠れた声を聞いて、男は三日月のように嘲笑った。
<了>
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