この手に抱いた光
〜1〜

 繋がったままの体勢で上肢を屈め、目の前の身体へ額を当てる。瞼を伏せて、汗ばんだ肌の感触と体温、それから伝う鼓動を確かめて、漸く息をつく。
「…三蔵」
 上目遣いで顔を見遣って名を呼ぶと、どこか苦しげに顰められた目許が瞬いた。快楽に色を増す紫の瞳が微かに覗く。
「中、熱くなってますよ」
 囁きに籠めた揶揄に、荒く刻まれていた三蔵の呼吸が一瞬止まった。これ以上は吐息すら洩らすまい、とばかりに唇を引き結び、忌々しげに眉を顰め強かに睨みつけてくる所作を、心地好く受け止める。普段であれば相当な迫力を感じるだろうが、愉悦に上気した色が添えられてしまうともう威力は無い。むしろ、無性に苛めたくなる。
 強かな視線に満面の笑みで応えると、三蔵がぎくりと肩を強張らせた。やめろ、とかいう制止めいた言葉が聞こえたけれど相手にせず、腰を抱えなおし繋がったままの下肢をぐいと突き上げた。
「―――っう、ァ…!」
 もう少し奥へと進んだ自身へ甘い刺激が伝うと同時に、腕の中の身体がひくりと跳ねた。間を置かず熱い内壁に締め付けられ、身体の芯を愉悦が突き抜けていく。粟立つ背筋に身震いしながら、湧き上がる衝動に唇を舐める。
「今凄く締め付けたの、判ります? …今みたいなのが好いのかな。もっと擦ってあげましょうか」
「馬鹿、言ってんじゃ…ね―――ッ、あ、ぁ」
 腰に指を喰い込ませるようにして強く掴み、自身の括れが入り口に引っ掛かるところまでゆっくりと引き抜いてから、角度を変え内壁を抉るように改めて突き入れる。既に吐き出した精が潤滑剤の代わりをしてくれるお陰で、隙間無く締め付けてくる肉の感触が生々しさを増している。罵声の代わりに上げさせた嬌声が耳に心地好い。
「聞き飽きましたよ、その台詞」
 気を抜くと荒くなってしまいそうな息を深く吐いて整え、三蔵の昂ぶりを緩く握り込む。手の平に馴染む重たい感触に喉を鳴らし、幹を親指で撫でる。
「っ、く……さわ…る、な…ッ」
 緩く突き上げる腰の動きは止めず、手に捉えた昂ぶりの先端へと指を滑らせて割れ目を辿る。ぬかるむ箇所へ指先を擦り付けると、微かに零れる三蔵の声が僅かに溶け、頤がひくりと跳ねた。指先を濡らしていく蜜を幹へ絡めて、根元から先端へと揉み込んでいく。
 暫くそうしていると、手許から濡れた音が聞こえてきたことに気付いた。先端を指先で一捏ねして手を離す。三蔵はふるりと身体を震わせた後、寝台の上でくたりと脱力した。荒く息をついている胸元を視界に収めながら手の平を三蔵の背中へと添えて、膝の上へ一息に抱き上げた。
「ああ…っ」
 繋がった箇所へ全体重が掛かる体勢で抱き上げられた三蔵は、嬌声とも呻きともつかぬ掠れた声を上げた。衝撃に竦んだ身体が自身を強く締め付け、腰から背筋へと愉悦が駆け上る。軽い酩酊の中、ちょっとした意地を張って声を呑み込み、浅く息をつく。
 体勢を整えるためだろう、僕の肩へ掛けられた三蔵の手を見遣り、首を軽く捻って口付ける。相変わらず顰められたままの眉根が少し辛そうに見えて、抱えた腰を宥めるように撫でた。
「そんなにきつく締め付けなくても大丈夫ですよ、直ぐに抜いたりしませんから」
 相変わらずな口調を心掛けて囁くと、すかさずきつい視線が飛んでくる。思った通りの反応に小さく笑い、構わず下肢を突き上げた。体勢が故に身体の奥深くへと楔を受け入れさせられた三蔵は、突き抜ける鋭い愉悦に背筋を撓らせ、身体を侵す快楽に声を失くして、手を置いていた僕の肩へと爪を立てた。
 止め処なく貪りたくなる衝動と愉悦に深い溜息をつきながら、肩へ走る痛みに目を細め、熱く湿った肉壁を幾度も揺すり上げる。
 腰を片手で抱え、空いた片手を下腹部の隙間へ潜り込ませて、震える三蔵の昂ぶりを握り込んだ。唇を噛んで、きつく締め付けてくる内壁の刺激を遣り過ごし、濡れる幹を手の平で軽く捻るように扱く。先の括れを指先でぐるりと撫で、割れ目を引っ掻き、根元で重くしこる袋を悪戯のように転がすと、膝に抱えた身体の震えが次第に酷くなっていく。
 比例するように増していく吐精の衝動を、大きく息を吐いて遣り過ごす。僕の肩を強く掴んでいた手から力が抜けたことに気付いてふと見遣ると、今度はそれが僕の頭を抱えるようにして触れてきた。遣る瀬無いといった仕草で緩く髪を掻き乱してくる手の感触が妙に心地好い。微かに笑み、肩口で緩くかぶりを振る三蔵の側頭部へ頬を寄せる。
「…ねぇ、三蔵」
 愛撫の手を控えて囁くと、ふるっと身体を震わせて三蔵が顔を上げた。間近に見る熱の籠った視線に身体の奥が熱くなるのを感じる。零れそうになる声を押し殺して途切れ途切れに息をつく、愉悦に潤んだ顔を覗き込んだ。

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