光舞う森での誓い
〜 2 〜






「ルヴァ、迎えに来たぜっ」
 勝手知ったるなんとやら。玄関先で会った地の守護聖の舘付きの執事を適当にやり過ごすと、ゼフェルはルヴァの居室へと真っ直ぐ向かう。ばん、と扉を開き室内を見回した視線の先、目当ての人影を見つけた。
「あ〜、いらっしゃい、ゼフェル……あの…こんな格好で好かったですか?」
 紗で織られた薄い緑色の上下を纏い、その上からもう少しだけ緑の濃いマオカラーの上着を羽織り、長い裾を翻しながらゼフェルに近寄る。普段の少し野暮ったい雰囲気から一変した、どことなく凛とした雰囲気に、ゼフェルは思わず目を丸くしてしまった。
「あの……ゼフェル?どうかしましたか?」
 不思議そうに顔を覗き込まれて初めて我に帰る。こういう服はやはり似合わないですかねぇ、と少し寂しそうな表情で自分の身体を見下ろすルヴァ。わたわたと慌てながら取り繕うと、ゼフェルは照れくさそうに頭を掻きながら小さい声で賛辞を贈る。
「その……あのよ…それ、似合うぜ…」
 めったに耳にしない言葉がゼフェルの口から出てきたことに、ルヴァが目を丸くする。ぼっと顔を紅くして、同じく小さい声で、ありがとうございます、とルヴァは返した。


 初めて目にする服を着たルヴァ。自分との逢瀬の時のために取っておいてくれたのだろうかと想うと、なんだかとても嬉しくて。ついぼうっと見蕩れてしまう。照れたように微笑むルヴァの姿に、やはりにっこりと微笑み返す。
 かりかりと頭を掻いて、それからばっと手を差し出す。
「…じゃ、行こうぜっ」
 ふわりと微笑んで差し出された手が、しっかりと握られる。ぐいぐいと引っ張るようにして前を歩くゼフェルの背中が、なんだか少しだけ大きく見えるような気がした。







 玄関の外へ出ると、ゼフェル自作のエアバイクが道の真ん中に置いてあるのが見えた。ふ、と厭な予感がしてルヴァはゼフェルに声をかける。
「あの〜……ゼフェル、もしかして…今日は、これで出かけるんですか?」
「そうだよ……なんか気にいらねーのか?」
 ほんの少し憮然とした表情でルヴァを振り返る。オレが腕によりをかけて改造したんだから、安全で快適だぜ。心配すんなって。
 乗るように促すゼフェルにやはり不安げな表情を隠せないルヴァ。オレの腕を信用しろよな、と振り返るゼフェルになんとか微笑みかける。ふわり、と音もなく静かにバイクが浮き上がった。


「しっかりしがみ付いてろよ?」
 え?と聞き返す間も無く、ふたりの乗るエアバイクは急発進をして空中に飛び出した。
「ああああああああああ〜〜〜」
 突然のことに驚いて、悲鳴じみた声を上げてしまう。それでも反射的に目の前のゼフェルになんとか抱きつき、ぎゅっと目を瞑った。背中に感じるルヴァのぬくもりに頬を緩めながら空中高く舞い上がり、ゼフェルは夕闇のなかエアバイクを器用に操った。
「ほら、気持ち好いから目ぇくらいあけてみろよ〜♪」
「ああああなた、どうしてもっと大人しく運転できないんですか〜〜」
珍しいルヴァの大声が空へ響く。それを追いかけるようにして、ゼフェルの笑い声もまた空へと広がっていった。







 暫く走るとルヴァも落ち着いてきたのか、ゼフェルの首近くにぴったりと寄せられていた頬の柔らかい感触がいつのまにか消えていた。周囲をきょろきょろと見回し、時折『 すごいですねぇ〜 』とか『 気分がいいですねぇ 』などという感想を漏らし始める。
「だろ? こんな風景、めったに拝めねぇぜ?」
「ええ〜、本当に。ありがとうございます、ゼフェル〜」
 得意げに胸を反らすその背中にもう一度そうっと頬を寄せる。今にも沈まんとしている真っ赤な夕日が、ゼフェルの瞳の色にも似た紅で森や草原を綺麗に染め上げている。その美しい景色を噛み締めるように、もう一度見渡した。
「もしかして、昨日誘ってくれたのはこのためだったんですか?」
 嬉しそうに微笑みながら、ホバリングするエアバイクの上でゼフェルの顔を覗き込む。そのルヴァの顔を、口元に笑みを湛えたままちら、と振り返った。
「んー、まぁ、これも綺麗だと思うけどさ。……オレが見せたかったのは、もうちょっと向こうにあるんだ」
いつもの悪戯っぽい笑顔でにっこりと微笑む。そんなゼフェルに目を丸くして、でもすぐに破顔しながらもう一度しっかりと腰に腕を回す。それが合図ででもあったかのようにふわりとエアバイクが舞い上がった。軽く後ろを振り返りにいっと微笑うと、鮮やかにハンドルを切る。ふたりを乗せたバイクは、眼 下に広がる鬱蒼とした森の向こうへと飛んでいった。








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