光舞う森での誓い
〜 4 〜






 乱舞する光のなかから小さな光がひとつだけ抜け出し、ふわりとふたりの方へと近付いてくるのが見えた。あ、と思う間もなくそのホタルはルヴァの指に停まり、飛び去る気配も見せず静かに明滅し始める。
「あ………」
 間近に見る光に、ルヴァの手が照らされる。熱を持たない筈の光は、何故かルヴァの指に熱をもたらしていた。
「………なんだか、熱いです」
「んなワケねーだろ?」
「でも………」
 ぐい、とルヴァの身体を些か乱暴に抱き寄せる。けれど、そのホタルは彼の指から離れようとしない。煌く宝石のようなそれを見つめて、ルヴァが薄く微笑んだ。それを見て大人気なくあからさまにむっとした表情を作ると、ゼフェルはルヴァの肩口から首を覗かせてホタルに声をかけた。
「おい、おめーになんかルヴァはやんねぇからなっ」
 さっさと自分の相方のホタル見つけにいけよっ!と幾らか拗ねたような表情で怒ったように言うと、いつまでも離れようとしないホタルを追い払おうとした。くす、とルヴァが笑いながら胸にまわされたゼフェルの腕をきゅうっと掴むと、それが合図だったかのようにホタルはふわりと舞い上がり群れへと帰っていく。


 つい先刻までホタルが停まっていたところを指でなぞるルヴァ。その彼を更にきつく抱きしめる。
「ルヴァは、オレのもんだかんな」
 不意に首筋に口付けられて、ルヴァの背筋が震える。苦笑しながら、揺れる声で、私は物ではありませんよ、と言うと、ゼフェルはぺろりと彼の首を舐め上げた。
「…ひゃ……っ…」
 ひくり、とわななく肢体を、絡め取るように腕の中に取り込む。
「…ルヴァは、オレのもん………で、オレは、ルヴァのもんだから」
 それであいこだ、とルヴァの耳元でゼフェルがくすくすと笑った。ほうっと小さくため息をついて、白い指を銀糸へと伸ばす。
「貴方が私のものなら……私は貴方のものですねぇ」
 肩口から少し顔を浮かしたゼフェルの赤い瞳と、首を捻るように横を向いたルヴァの青鈍の瞳が絡み合う。途端に弾ける笑顔と微かな笑い声。



 暫く貌を見合わせたまま笑い続け、は、と声が途切れた瞬間、ふたりの距離が更に縮まった。淡いホタルの光に照らされながら、どちらともなく唇を重ねあう。




 啄ばむように。慈しむように。


 そしてだんだんと、互いの気持ちを確かめ合うような、深い口付けになり。


 ホタル達が一生の相方を次々と見つけていく中、永遠が空間を埋め尽くす。




 どちらからともなく顔を上げ、想いの流れるまま互いをかき抱く。
「なにがあっても……どこに居ても……オレ、絶対にルヴァを見つける」
「…ゼフェル………」
 ふわりと見開かれた青鈍の瞳に、うっすらと雫が浮かび、溢れんばかりに満ちていく。
「絶対に見つかる………オレなら、絶対に見つけてみせる」
「見つけて……ください、ね………」 


 きつく抱き合ったふたりの影は、時を止めたかのように暫くそこを動かず、静かに、ただ静かに、ホタルの光に包まれていた。







 明滅する小さな輝き。


 水の中で幼少を過ごし、空に舞う為の準備を暗い地面の下で行い、羽と光る為の身体を手に入れてようやく樹上へとその身を移す。そしてただじっと夕暮れを待ち、小さな光を身体に燈して夜空へと舞いあがる。


 生涯ただひとりの相手、を見つける為に。







Fin



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