「ルヴァ…」
しがみついてくる身体の強張りが解けるように、ゆっくりと背中を撫で下ろしていく。頭へ頬を寄せターバン越しに口付けると、ルヴァが微かに身動いだ。緩く息をつくその肩を辿り、側頭部へと手の平を添わせる。手とは反対側へ寄せた顔を少しずつ下へとずらしていき、ターバンと肌の境目に唇を触れさせながら、肩に置いていた手の平を頤へ当てた。
「…好きだ、ルヴァ」
「―――私も、です」
触れていた顔を僅かに上げて視線を絡め、改めて想いを告げる。柔らかい微笑みと共に返された同じ想いに自然と笑みが零れる。そのまま、そっと口付けた。
触れた唇が、いつもより甘い。もっと先へ、奥へ行ってもいい、という気持ちの違いか。急くな、と心の中で己に言い聞かせながら一度顔を上げ、角度を変えて触れる。唇の合わせに舌を添わせて辿ると、いつものようにおずおずとした所作で緩んでいく。手の平で頬を緩く撫で、舌を滑り込ませた。
あまり深く探ると引き返したくなくなるから、今までは唇を軽く撫でるくらいの口付けで止めていた。それを、今日はもう少し奥へと向かわせる。こくりと喉が鳴った。先走りそうになる意識を諌めながら、いつものように唇の裏を舌先で辿り、軽く吸い上げる。ルヴァの頤がひくりと震え、更に唇が緩んだ。歯列をゆっくりと辿り、顔を上げる。
「……オ…ス、カー」
先刻よりも少しだけ潤んだ目許を瞬かせ、ルヴァが小さく呟いた。未だ少し不安げな様子に、大丈夫だ、と頷いて見せる。微かに頷く姿に目を細めて、また唇を重ねた。
唇を潜り抜け、歯列を辿り、舌先でもう少しだけ口を開くよう促す。喉を鳴らしてそれに応えたルヴァの頬を撫でて、奥に潜む舌を探る。
「ぅ…ん、っ」
俺の背中へ添わされたままのルヴァの手に力が籠った。頬へ手の平を当てたまま、宥めるように親指で撫でる。探り当てた舌を掬い上げると、ルヴァの肩がひくりと震えた。舌が触れる度、背筋に軽い痺れが走る。夢中で貪りそうになる自分をどうにか抑え、強引にならない程度に口付けを深くしていった。
「ルヴァ…大丈夫、か」
腕の中、くたりと寄りかかってくるルヴァの顔を覗き込む。上気した目許に潤んだような視線を揺らめかせ、熱っぽい息を浅くつく。普段の姿からは想像できないくらいの媚態に、くらりと目眩を覚える。
「……えぇ、大丈夫…」
喉を鳴らして頷く、その膝裏へと片腕を伸ばした。遊び相手との情事ならこのままソファでするほうがどちらかというと好みに近い。が、相手がルヴァならば、それは有り得ない。
「―――寝室へ、行こう」
短く告げ、力の抜けた身体を抱き上げた。突然の浮遊感に慌てるルヴァの額へ頬を寄せ、目許や頬へ宥めるような口付けを施す。次第に先刻したような深い口付けへと変えていく。そうして少し落ち着いた頃合を見計らって扉へと向かい、握って廻すノヴでなかったことに感謝しながら、押し開けて廊下へと出る。
「ん……っ、オス…ヵー」
「ルヴァ…」
ちゅ、と水音を立てて震える舌を吸う。初めての深い口付けに晒されて喘ぐように呼吸する唇を再び奪った。
明日はきっと、この私邸からふたり連れ立って出仕することになるだろうな、と頭の片隅で思う。むしろ、明日仕事が出来るかどうか、そちらの方が問題かもしれない。
―――ルヴァを今晩寝かせてやれる自信は、全くといっていいほどないのだから。
<了>
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