「ルヴァ……」
万感の思いを籠めて愛しい人の名を呼ぶ。
アフタヌーンティーも図書室での逢瀬も、もちろん泉での釣りも、ルヴァと一緒ならば楽しく過ごせる。そういった時間は楽しいと思うし、これからも色々な景色をふたりで見たいと思う。けれど、砂漠の民特有の衣装で襟元までぴっちりと隠されている肌に触れたい、ルヴァを抱きたい、とも、やはり思うのだ。
細い頤に手をかけ、唇で唇に軽く触れる。一度視線を交わしてからもう一度口付け、下唇を軽く食む。
「なぁ、ルヴァ……今晩…いい、か?」
そのまま一息にルヴァの身体を抱き上げたくなっている衝動を抑え、低く囁くように訊ねる。
「ぇ………今晩、です…か。…あの、…その………」
「…駄目、か」
言い淀むルヴァを腕に抱いたまま、もう一度だけ問う。どこか乞うような口調になっている自分に気付いて、内心苦笑が洩れた。
「いえ、…こんな直ぐにとは思っていなかったので……ちょっと、心の準備が」
「―――いや、…まぁ、そうだろうな。俺こそすまなかった」
俺はともかく、ルヴァにしてみれば男相手はさすがに初めてだろう。打ち明けられて直ぐ、というのは確かに性急だった。気にするな、と腕を緩め身体を起こそうとした。が、その俺をルヴァが引き止める。
「…、どうした?」
「あの、…いえ、その…今晩でも、私は、別に」
構いません、と続いた台詞の語尾は、恥ずかしさに顔を真っ赤にしているルヴァの唇の中で解けて消えた。俺の二の腕を掴んだまま俯いてしまったルヴァの顔を、首を捻って横から覗き込む。
「いい―――のか」
俺の問いかけに、少しの間を置いてルヴァはこくりと頷いた。意を決したように上げられた顔が、俺へまっすぐ向けられる。
「その………はじめて、なので…よろしくお願いします…」
真っ赤な目許と初々しい言葉に、つい顔が緩みそうになる。その想いとは別に、安心させるように微笑ってみせながら、抱いた背中を軽く叩いた。
「大丈夫だ。…まぁ、俺もそれほど勝手が判っているわけじゃないんだが」
「そう……なんですか」
途端に眉尻を下げ不安そうな面持ちになるルヴァを見て、今度はこちらが慌てる番だった。
「いや、大丈夫だ。…御前の嫌がることは、しない。炎のサクリアにかけて誓う」
そう言いきって頬へ口付け、再度抱きしめる。それに応えるようにしておずおずとルヴァの腕が伸びてきて、しがみつくように抱きしめられた。なんともいえない想いが胸中を過ぎる。
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