七夕の戀




 煌きが零れ落ちそうなほどの星空。ともすると潤みそうになる目許を幾度も拭いながら、地慧は川のほとりを歩いていった。
 見れば見るほど、今この時が一年前のあの日であったかのような錯覚に陥りそうになる。彼の傍にいつも自分が居ることを疑いもしなかった、あの頃。



 幾度目だっただろう。見上げた星空がじわりと滲んだと思ったその瞬間。
「っあ、ああああっっ〜〜!!」
 悲鳴じみた声と盛大な水音が夜の静寂を破る。空を仰いだまま歩いていた為、川の縁に近付き過ぎていたことに気付かず、脚を踏み外した地慧は川へと転落してしまった。



 身につけていた長衣が水を吸い重く纏わりつく。思っていたより早い流れが更に邪魔をして岸に辿りつくこともままならない。もともと運動の苦手な地慧は幾度も頭まで水中に没し、その度に水を呑んでしまう。
 意識の遥か彼方で己の身の危険を感じながらどうすることもできず、目の前が暗くなり水音が遠ざかっていくのをまるで人事のように感じる。
『…………』
 頭の片隅に遠く離れた彼の名前が響くのを感じながら、地慧の意識は水に呑みこまれていった。




≪………≫







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