七夕の戀




 ふわりと微笑み、地慧は軽く首を左右に振った。
「いえ…少し疲れたようなので、今日は帰ります」
「そうか……」
 残念そうな貌で苦笑する光華に首を傾げながら微笑み返す。
「次の機会に……また、誘ってくださいますか?」
 もちろんだ、とでもいうように、地慧の言葉に光華は大きく頷いた。



 光華の部屋を辞してとことこと歩いていると、路の向こうから手を振る影が見えた。目を凝らすのとほぼ同時に、その人影がぱたぱたと地慧の元へと走って近付いてくる。
「もうお帰り?」
 朱を引いた唇を左右にきゅっと伸ばして微笑んだのは夢貴だった。しゃらしゃらと装身具が擦れる音を響かせながら地慧の隣に立ち、並んで歩き始める。
「貴方こそ、今日の奏楽は終わったんですか?」
 整った貌を笑みで崩しながら、もちろん、と夢貴は胸を張った。
「今日は水弥が居なかったから音色が少し寂しかったけど、西の弟宮が参加してくれたから結構楽しかった」
「それはよかったですね」
 手にした竪琴を爪弾きながら、嬉しそうに微笑う。金の長い髪、色とりどりの羽飾りで彩られた襟元に胸元、ふんわりと風をはらんで透き通る肩布。どれをとっても華やかな夢貴に目を細めて地慧はやんわりと微笑んだ。



 右へ行くと地慧の宮、左に行くと夢貴の宮へ行ける、分かれ道。途中で逢ったとしても、いつもなら自然と分かれていく筈の夢貴がその日はそのまま地慧についてくる。不思議そうに首を傾げて金の髪を振り返る。
「あの、どうかしましたか?」
「いや……どうもしないんだけど」
 足を止めた地慧に合わせるように足を止めた夢貴が、青鈍の瞳を覗き込む。
「これから、わたしの宮に来ない?……夕餉でも一緒にどうかな、って思ってさ」
 ああ、と得心のいった表情で蒼の髪が揺れた。
「どう?」
 答えを促す青の瞳の前で、地慧は考える。










≪夕餉に誘われる≫         ≪やはり部屋へ帰る≫









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