七夕の戀




 手にしていた織物に視線を落として、やんわりと苦笑する。
「汚してしまったら、光華に悪いですものねぇ」
 裏手へ続く道をやり過ごして、表へと回る。織物を大事そうに抱え直し、するりと頬擦りをした。滑らかな肌触りと、ひんやりとしているようで何処かほんのりと温もりを感じるような、不思議な感触。



「あ」
 なんとなく巡らせた視線の先、見覚えのある黒衣に気がつき、地慧はぱたぱたと駆け寄った。
「闇珠、闇珠じゃないですか〜」
 あまり外を出歩かない彼だけに、少し驚いたような色を添えて地慧はにっこりと微笑う。
「どうしたんですか、こんなところで」
 ゆらり、と黒の長い髪を揺らしながら、闇珠が地慧に一歩近付く。
「水晶に人影が映った…」
 言葉の意味が飲み込めず、首を傾げた。さらりと蒼の前髪が揺れる。



「泣いている御前の姿が映ったのだ」
 だから、気になった。深い瞳の色が雄弁に告げる。
 先刻まで浮かんでいた微笑みが掻き消え、びくりと細い肩が強張った。
 動かない地慧の表情を見ようと伸ばされた闇珠の手は、踵を返した地慧には届かずに空を切る。
「地慧」
 低い低い声が、染みるように響く。
 数歩離れたところで、地慧の足が止まる。
「どうして、泣いている…?」
 震える背中に、仄かな温もりが触れた。










≪振り切って部屋へ駆け込む≫         ≪足を止めて振り返る≫









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