ちち、ちち、と小鳥の囀る声で目が覚める。
　擦った目で外を見やれば、地平から太陽がようやく顔を覗かせたところだった。上掛けを跳ね除けて、顔を洗い身支度を始める。久方振りの逢瀬。随分、随分とこの１年は長かった。１分でも１秒でも早く、約束の場所へ。気持ちばかりが急いて、留め具が上手く引っ掛からない。
「あ〜……駄目ですねぇ、少し落ち着かないと」
　鏡の向こうで苦笑する自分を見詰め、急いた心を落ち着けるようにほうっと息をついた。



　この日のためにはやくから用意していた服と靴。自ら誂えたそれを見て、彼はなんと言うだろうか。とりとめもないことを考えながら、早々と宮を後にした。



　朝露が足元を濡らし、清浄な空気が頬を撫でていく。
　やがて、宮のある敷地から外へと続く大きな門が見えてきた。門を守る衛士に天帝から戴いた証書を見せると、恭しく頭を垂れて一礼し重い扉を一息に開け放った。短く謝辞を述べ、足早に門を潜る。その遥か背後でもう一度衛士が頭を垂れ、地慧をいつまでも見送っていた。





　静かな朝。穏やかな水面。何ひとつ変わらない風景を眺めながら、ひんやりとした朝の空気を胸一杯に吸い込み、ぐるりと辺りを見渡した。
　もう少し歩くと、初めてふたりが出会った場所へと辿り着く。胸元を抑えながら深く深く息をつく。こくりと息を飲み込み、またここで逢おうと言った彼の言葉通り、地慧は懐かしいその姿を思い浮かべながら、足を踏み出した。
　あの日、彼と約束をした場所は………