七夕の戀




 重い足取りでほとりを歩き、水面に映る己の姿をぼんやりと見ながら帰路につく。
 変わらず零れる涙はそのままに、悲しげな面持ちでふっと視線を流した。



「あれ、地慧様じゃないですか? こんなところで、どうかなさったんですか?」
 泣いている地慧を見て吃驚したように駆け寄ってきたのは、歳若い東の弟宮達だった。
 天界に住まう総ての動植物の管理を司る省の長、金の髪の緑那(りょくな)と、宮中の警護を司る省の長、栗色の髪の風皓(ふうこう)のふたりは、ぱたぱたと駆けてきて地慧を見上げた。
「何処か痛いのですか?」
「それとも、なにかあったんですか?」
 酷く心配そうに気遣ってくれるふたりを交互に見ながら、地慧はふわりと微笑う。
「あ〜……大丈夫ですよ。心配かけてしまってすみませんねぇ」
 何処か痛々しいその笑みに感受性の高い緑那が同調してしまい涙ぐみながら、ぶんぶんと左右に頭を振って口を開いた。
「この間まで篭りきりでお仕事なさっていらしたんですよね?僕、身体に良い物作らせて届けさせますから!」
「変な奴にうろつかれるようでしたら遠慮なく言ってください!」
 俺も見回りに行くようにしますから、と拳を握る風皓を見る青鈍の瞳が僅かに細められる。
「優しくていい子達ですねぇ…」
 地慧は両腕を広げると、ふたりをぎゅうっと抱き締めた。



 両の瞳に溢れた涙を拭うと、もう一度やんわりと微笑む。
「ふたりとも、ありがとうございました。少し元気が出たような気がします」
「今度、遊びに行きますねっ」
 少しほっとしたような面持ちでようやくふたりが微笑う。



「僕、これから瞑瑠(めいりゅう)のところに行くんですけれど……地慧様も如何ですか?」
 にっこりと笑う緑那の隣で、風皓が軽く首を傾げた。
「宮へお戻りになられるのなら、俺、お送りしますけれど……」








≪風皓と一緒に帰る≫       ≪ひとりで帰る≫


≪緑那と一緒に行ってみる≫







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